Epilog〜エピローグ〜 






「あ、流れ星だ!!」
地上車を拾おうと宙港の外へ出たミュラー一行の中で一番先に口を開いたのはアルノーだった。
瞬く間に流れゆく星を手に取るべく小さな身体がジャンプする。
「馬鹿ね、アルノーは。お星さまは取れないのよ」
容赦のない姉の言葉に星を掴んだはずの幼い拳が広げられると、案の定そこには何もあるはずがない。
「お姉ちゃんの馬鹿!!」
星が取れないのは姉であるマリーのせいでは決してない。だがもれなく姉に罪を押しつければ一触即発の危機は必然である。
「本当のことを言っただけじゃない」
「うるさい!」
「なによ!」
「やめなさい」
間髪入れず姉弟に向かって仲裁の声を入れたのは母マルガリータだった。
「だってお姉ちゃんが……!」
口を尖らせ母親に抗議するアルノーにマリーはぷいとそっぽを向くと、何事もなかったかのように傍らの父親の手を取ってしまった。



その光景を後方で黙って見守っていたミュラーとフィリーネは、どちらからともなく微笑み合うと、やがてゆっくりと天を仰いだ。
晴れ渡った夜空は満天の星に満ちている。
「ついさっきまであそこにいたのにね」
「うん」
「今はとても遠いわ」
フィリーネの右手が中空に向かって掲げられた。
「またいつでも行けるさ」
すると、砂色の瞳を細めて宙を見つめるミュラーもまた、左手で空<くう>を目指し、アルノーを真似たのか一度だけ星を掴む仕草を見せる。
「つかめないらしいわよ」
「そうらしい」
見つめ合い、小さく微笑み合うと、寸前まで星を欲した大きな手を片割れの華奢な手が優しく包み込んだ。
フィリーネの行為にミュラーが些か驚きの表情を見せて彼女を見下ろせば、そこには星明りに照らされた春の木漏れ日が存在した。
今やしっかりと繋がれた手が静かに降ろされると、二つのそれは地上にて一つとなる。
どちらからともなく二人は満足げに顔を見合わせた。




星は、つかめたのかもしれない――――――






<END>


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