Greatest sweets





女性の好みをあえて言わせてもらえるなら
柔らかくて、ぽちゃっとしている位の方が好き
触っていて気持ちがいい、抱き心地がいい、丸みを帯びた身体は触れたくなる
そうは言っても好きになった女性なら
あんまり関係ないんだってば
うまく言えなくてごめん



「いや、フィリーネは細いから心配だって言っただけなんだよ…それがずっと胸の話に絡むとは思わなかったんだ。
で、女性の悩みならばサンダルフォン大佐かなって。お前にもそういうこと聞いたことなかったし…」

 項垂れるミュラーの傍で、キスリングは苦虫を潰したような顔をしていた。
休日を利用して時折互いの官舎を行き来することはあったが、駆け込み寺になるのはごめんだぞとキスリングは内心で毒づいていた。
 
「大変お困りなのは承知の上で言わせてもらいますが、そういった質問は小官にも、サンダルフォン大佐にも、果ては全ての女性へ対するセクハラなのではないでしょうか?ミュラー元帥」
「そうは言うけどさ…」
「俺に聞いて何をどうするつもりなんだよ」
「サンダルフォン大佐が言ってたからね、『ギュンターのせいで胸が重くなった』ってさ」

 急激な反撃に、煙草をくゆらせていたキスリングが咽た。いつの話だと言いたくても言えない。
ルシエルもフィリーネも、目と鼻の先にいる。金と銀の豪奢な髪を持つ両者は、色の取り合わせと同じように仲も良くなっていた。
ルシエルの隣でフィリーネも、ミュラーと同じように項垂れながら、自身の胸に手を当てていた。原因は砂色の髪を持つ男の女性の好み。

「私は人それぞれ綺麗な形であればいいと思うんですけどねぇ」
「それは、ルシエルは綺麗な形だし大きさも充分だし…」
「大きいと重たいし、下着の種類も少なくて困ることも多いのよ、フィリーネ」
「それは女の悩みとしてはそうだろうけど、ナイトハルトはそう思ってないもの…」
「体質ってあるのよ。貴方は確かに痩せているから、心配なだけよ」

 テーブルにはルシエルが張り切って作った料理の数々が並ぶ。
早く手をつけたいのは山々なのだが、沈み込むフィリーネの様子を見ていると、中々そうもいかない。
久しぶりのルシエルの手料理にありつけるのはいつになるやら、とキスリングは二本目の煙草に手を伸ばした。

「で」
「でって」
「だからお前いつもどうしてるんだよ」
「まだ食いつくのかよそこに」
「そーいや聞いたことないなと思って」
「教えたくない」
「上官を前に守秘義務とは良くないな」
「ざけんな」
「言葉遣いも悪いぞ、親衛隊長の癖に」

 ルシエルにワインを勧められていたせいか、ミュラーの口はいつも以上に軽く滑っていた。
二本目の煙草に火がつく。一息、煙と共に長いため息がキスリングの口から落ちた。

「…そもそもな、そう簡単にサイズが変わったりしてみろよ」
「いいじゃないか、男としては嬉しいって思わないのか?」
「触り心地の点としては嬉しいことかもしれないな、ただサイズが変わるごとに下着を全部買いなおしだぞ」

 眉間に皺を寄せたまま、紫煙を今度はミュラーに向かって吐き出した。
俺の財布からいくらなくなったと思っている、とキスリングは言おうとしたが、帝国元帥である彼に効果はなさそうだったので黙ってしまった。

「それに一朝一夕で胸は大きくなるものじゃないわよフィリーネ」
「じゃあ、何か方法が?」
「あるわよ、食生活自体も大事だけど、やっぱりミュラー提督の腕が」
「ルシエル」
「あらやだ、女の子の秘密の話に割りこまないでよギュンター」
「不敬罪になる前に止めてやったんだよ。フィリーネ、貴女もあまり本気にしないで」

 心からの親切心を持って、キスリングはルシエルに吸いさしの煙草を与えた。これでしばらくは黙るだろうという算段だ。
確かにその算段は成功し、ルシエルは短くなった煙草を美味しそうに銜えて黙った。今度はそのとばっちりが思い切り自分に飛んでくるとは思わずに、キスリングはテーブルの上のチーズを摘んだ。

「キスリング少将」
「はい」
「少将もやっぱりルシエルの体みたいな人が魅力的だと思います?」

 ルシエルが楽しそうに喉をくつくつ鳴らす。ミュラーが離れたソファで心配そうに自分を見上げている。
言葉を捜すのに只でさえ時間がかかるのに。キスリングの脳内は一瞬フリーズした後、再計算を始めた。

「…小官は特にこだわりませんが。そもそも、体だけが大事なわけではないでしょうし」
「あら、こないだベッドの中で『もっとでかくしていい?』って言ってたのはどこの誰でしたっけ」
「一箱やるから黙ってろ」
「やった」
「ミュラーは、フィリーネが痩せているということが少々心配なだけです。スタイルの善し悪しとは関係ないですよ」
「答えになっていないような気がします少将…」
「私もそう思うー」
「ルシエル黙ってろ。それにフィリーネは充分美しいではないですか。小官も部下から貴女のことをよく聞かれますよ」

 ルシエルが楽しそうに笑って同意だと頷いた。ミュラーもまた、ソファーから立ち上がってフィリーネの傍に跪くようにして体を折った。
フィリーネもそうされてしまっては、ミュラーと向き合う他ない。その様子を見て、キスリングとルシエルはくるりと背を向けた。

「ミュラー、いつもの部屋使えよ」
「ご飯は温めなおしたら食べられるから、ご自由にどうぞ」
「ありがとう」
「えっ、待ってルシエル…」

 フィリーネの呼びかけも虚しく、夫婦揃って背を向けたままリビングから出て行ってしまった。
まだ助けを求める視線を送る彼女を、ミュラーの低い声と大きな手が遮る。砂色の目が真剣に、フィリーネの青い瞳と交錯した。

「フィリーネ」 
「…本当に、こんな私でいいの?」
「いいに決まっている。本当に、ただ心配していただけなんだよ」
「ルシエルみたいに料理は上手じゃないし」
「俺だって得意じゃないよ」
「でも不安になるの」
「ならなくていいよ。俺が一番好きなもの知ってる?」
「一番?ご飯とか、お菓子とか?」

 ふっとミュラーが噴出して、フィリーネの額に自分のそれを合わせる。
可愛くて仕方がない。体も心も全部、全部。

「フィリーネ」
「え?」
「一番、好きだよ」

 そうして美味しそうに、フィリーネの唇を味わうのだった。



 リビングの向かい、風呂場の脱衣所でルシエルはちらちらと様子を伺いながら煙草をふかしていた。
シャワーを浴びて出てきたキスリングがうんざりした面持ちでルシエルを詰る。

「おいそこの出刃亀」
「何よう」
「飯どーすんだよ、俺チーズしか食べてない」
「一食位なくても死なないわよ」
「やだ」
「子供ね」
「お前の飯久しぶりなんだ」
「…じゃあ、フィリーネがご飯温めだすまでこれで我慢して?」

 濡れた銅線色の髪を掻き分けて、ルシエルが優しくキスを唇に落とす。
甘くて苦い煙草の味を分けられたら、文句も言えない。再び料理の匂いが家中を満たすまで柔らかな唇を堪能していた。

<END>


Heaven's Kitchen」のすぎやま由布子様より、またまた素敵なお話頂いてしまいました。2作目ですよ−!嗚呼、私って何て幸せ者なんだろう。ありがとうございます!今回もすぎやまさん宅のルシエルさん登場です。ホント、このお姉さんは粋でカッコイイです。
このお話は某呟き上でのやり取りから、すぎやまさんが生み出して下さったものなのです。もうその素早さと云ったら…まさに疾風(笑) 何がきっかけか忘れてしまいましたが(笑)フィリーネ貧乳説(失礼)を私が出したのが発端だったような気もします(笑)そんなしょうもない話をこんな萌え処満載のお話に仕上げて下さって…ありがとうございますー!!